京都の水を語る上で欠かすことができないのは貴船神社です。なぜ、欠かせないかというと、朝廷の水に関わる政が行なわれていたからです。当時の産業の中心は農耕でした。農耕には水が必要であり、水の神に祈る儀式は、朝廷の重要な仕事であったと言えます。
 京都には、上鴨神社、下鴨神社、松尾大社など多くの古社があります。その中で貴船神社だけが水の神を祀っていると言ってもいいと思います。
 さて、貴船神社はいつ頃からあったのか。1600年ほど前だろうと言われています。その事実を貴船神社の高井宮司に尋ねると、貴船神社の社殿の裏側の山手に「岩座(いわくら)」という3つ大きな岩があり、有史以前から岩座で祭事が行なわれていたと言われます。伝説では、玉依姫(たまよりひめ)の話があります。玉依姫が、浪速の津(港)から淀川・賀茂川をさかのぼり、船が着いた貴船の地に祠を建て、国土の安泰を願ったと言われています。その船が貴船神社の奥ノ宮にある「船形石(ふながたいし)」とも言われています。船形石は、6~7mの大きさかと思います。その船は黄色い船であったため、この地が「きぶね(貴船)」と呼ばれるようになったとも話もあります。この貴船神社に祀られているのは、高(たか)オカミの神、闇(くら)オカミの神です。高井宮司がおっしゃるには、高オカミ、闇オカミは同じ神で、闇オカミは谷の水、高オカミは岡の水を表しています。神様的な話をすると、イザナミノミコトがガグツチ(火の神)を三段に切って、一段が高オカミに、その血が闇オカミになったとも言われています。
 「雨を降らせてくれ」とか「雨を止ませて欲しい」との政は、平安時代以前は奈良県の東吉野村にある丹生川上神社が中心でした。丹生川上神社というのは、ミズハノメと高オカミ、闇オカミの3つの神を祭神としています。この丹生川上神社と貴船神社が、水の神様を祀る古社です。平安時代に入ってからは、天皇は貴船神社に馬を奉納し、水の神に祈るようになります。この貴船神社では、3月9日に「雨乞祭」という祭礼行事が行なわれます。そこで、「雨たもれ、雨たもれ、雲にかかれ、鳴神じゃ」と唱えて、その年の豊作を願うのです。この「雨たもれ、雨たもれ」の言葉は、民衆の雨乞いに伝播して行くことになります。

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